Yahoo!ニュース「孤独死する高齢者は何人いるか推計してみた 70代後半では100人にひとりが孤立死・孤独死する」
解決すべき社会的問題として浮上する中高年層の孤立死・孤独死
年末年始のこの時期、テレビや新聞で目にする悲しい記事のひとつに「孤独死のニュース」があります。昨年末にも有名女優が自宅で突然お亡くなりになり、多くのファンが悲しみの底に沈みました。
彼女の場合、まだ若い突然死でしたが、高齢化が進展する日本社会の中で、「中高年層の孤立死・孤独死」が、解決すべき社会的問題として大きく浮上してきています。昨年8月に内閣府は、「「孤立死・孤独死」の実態把握に関するワーキンググループ」を立ち上げ、現在、孤立死・孤独死をどのように定義し、実態把握するかについての議論が進められています。
孤立死・孤独死を迎える人の多くは、ひとりで生活を営む中高年層です。日本における65歳以上のひとり暮らしの高齢者数は、2020年時点で約631万人(男性231万人、女性400万人)。 今後、単身高齢者数はさらに増加し、65歳以上の単身高齢者の数は2030年には887万人となり、65歳以上男性の20%、女性の27%が単身高齢者となります。さらに2040年には男女合わせて1千万人を超え、男性の24%、女性の28%が単身高齢者となることが予測されています。中高年者の孤立死・孤独死がさらに大きな問題として浮上してくることは確実なのです。(表1・2)
表1 65歳以上男性の世帯構造別予測
表2 65歳以上女性の世帯構造別予測
中高年者の孤立死・孤独死の何が問題なのか
では、中高年者の孤立死・孤独死の何が問題なのでしょうか。最も大きな理由として挙げられるのが、「人間としての尊厳の保持」です。孤立死・孤独死の場合、死後何日も経過して発見される場合も多く、そうした死のあり方が果たして人間の尊厳が保たれた死であると言えるのかについては大いに疑問が残ります。そうした死を避けるには、どのような社会的方策が必要なのか、今後考えていく必要があります。
また、孤立・孤独のまま死を迎える人の中には、経済的に厳しい方や、病歴を抱えた人も多く、人との繋がりを失いセルフネグレクトの方も多いという声もあります。孤立死・孤独死を避けるためにも、何が原因となったのが、その理由をしっかりと明らかにしていく必要があるのです。
孤立死・孤独死は、過去にも何度か社会的問題として取り上げられました。「孤独死」という言葉が生まれたのは1970年代のことですが、1990年代の阪神・淡路大震災で被災した人の孤独死が多発したことから、メディアが注目しはじめ、2000年以降は頻繁に孤独死問題が取り上げられるようになりました。2007年には、厚生労働省により「孤立死ゼロプロジェクト」が創設されましたが、さしたる成果のないまま終わっているようです。そうしたことから、昨年改めて実態把握に関するワーキンググループが発足したのです。
不明瞭な孤独死・孤立死の定義
実は、孤立死や孤独死に関する定義、実際の死亡数は、まだはっきりしていません。
何をもって孤立死・孤独死とするか。その定義を検討するための条件項目としては、世帯構成(単身世帯)、死亡場所(自宅)、自殺の有無、看取りの有無、死後の経過時間、孤独感を感じていたかどうか、などさまざまな要件があり、何をもって孤立死・孤独死とするのか、まだはっきりとした結論は出ていません。ワーキンググループでは、中間報告の仮置きとして「誰にも看取られることなく死亡し、かつ、その遺体が一定期間の経過後に発見されるような死亡の態様」と定義しています。
孤独死・孤立死の数を推計してみる
定義が定まっていないため、当然ながらその実数も把握できていないのですが、昨年8月に初めて警察庁がひとり暮らし死亡者数(令和6年上半期暫定値)を発表しました。「警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者」がそれで、これは内閣府の要請に応じて、警察庁が発表したものです。(表3)これは、まだ半年間の仮発表データですが、この数値を活用して、単身中高年者のうち、どのくらいの人が孤立死・孤独死を迎えているのか仮推計してみました。
(但し、今回の推計では、引用したデータの比較年度は必ずしも一致しておらず、データの整合性には一部問題があることをあらかじめお断りしておきます。)
「警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者」によると、令和6年上半期に亡くなった総数は37,227体です。うち、50歳以上が34,825体と全体の9割以上を占めています。年齢が高まるほど孤立死・孤独死が多くなる傾向はあるようです。
表3 警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者(2024年上半期(1~6月)暫定値)
1000人中、4人〜12人が孤立死・孤独死で亡くなる
ではこの数が、実際の単身者のうち、どの程度の割合を占めるのかを推計してみました。ここで発表された死亡者数は上半期データなので、この数値の2倍を仮に年間死亡者として、50歳以上を年齢階級別(5歳刻み)の単身高齢者数と孤立死・孤独死亡者数を比較したものが表4です。
表4 年齢階級別に見た単身世帯数と孤立・孤独死亡者数
これを見ると、孤立・孤独死亡者数は単身世帯数の0.4%から1.2%となっています。階級年齢が高くなるにつれて孤立死亡率は上昇し、50-54歳では1000人に4人が、75-79歳になると100人に一人が孤立・孤独死で亡くなるという計算になります。この数値を多いと見るか少ないと見るかは、それぞれの判断ですが、100人に一人は決して少ない数値とは言えないでしょう。やはり年齢が高まるほど、孤立・孤独死のリスクは高まるのです。
孤立・孤独死亡率が最も高いのは50代
一方、孤立・孤独死亡者数を年齢階級別死亡者数と比較すると、少し違う局面が見えてきます。(表5)これを見ると、年齢階級別死亡者のうち、孤立・孤独死亡者率が最も高いのは、50代後半(55-59歳)ということが分かりました。年齢が高くなるほど、病気・衰弱・寿命・怪我などさまざまな要因で死亡率が高くなるのは当然のことですが、こと死亡者数に占める孤立・孤独死亡率という側面で見ると、50代が高く、年齢が高くなるにつれて下がっていく(孤立・孤独死の実数は上がりますが)という意外な結果になりました。これはどのように読み解いていけばいいのでしょうか。
表5 年齢階級別に見た死亡者数と孤立・孤独死亡者数
年齢によって異なると考えられる孤立死・孤独死の内訳
年齢層の低い50代の孤立死・孤独死亡率が高い理由として考えられるのは、この年代の自殺率の高さによるものです。表3の死亡者数には自殺者数も含まれています。「令和5年中における自殺の状況」(厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局」では、年代別に見た自殺率の高さは50代(50-59歳)が最も高く、2023年には4,194人が自殺で亡くなっています。これは50代死亡者数(2022年)の約56%を占めていることなります。自殺者がすべからく孤立死・孤独死に含まれるとは限りませんが、一定の相関があると考えれば、これは顧慮すべきものと言えるでしょう。50代自殺者の原因としては、健康問題、次いで経済・生活問題、家庭問題が上位に上がっています。
表6 年齢階級別に見た自殺者数と孤立・孤独死亡者数
一方、70代80代になると自殺による死亡率は相対的に低くなり、それ以外の理由で孤立死・孤独死することが多くなります。これらの年齢の方が自殺以外の理由で、孤立死・孤独死する理由として考えられるのが、まずは病気・健康による死亡でしょうが、もうひとつの理由として考えられるのが不慮の事故による死亡です。人口動態調査で不慮の事故による死因を見ると、70代以上では、「自宅での転倒・転落」、「浴室内での溺死」、「誤嚥や不慮の窒息」、などによる死亡が明らかに高まっているのがわかります。
表7 年齢階級別に見た不慮の事故による死亡数
このように見てくると、年代により孤立死・孤独死となる理由はそれぞれ異なるのではないかと推察されます。孤立死・孤独死をいかに防ぐかを考えていくためには、こうした年代による死亡理由も詳しく検討しながら対策を考えていく必要があるのではないでしょうか。