第8回 ソーシャル・エンゲージメント

高齢期になると、日常活動に困難を感じる割合が次第に増えてくる。例えば、住宅の外回り清掃、重たいゴミ出し、電球の取り替えなどなど。夫婦のどちらかが健常か、子供が同居、もしくはであれば、ちょっとした困りごとであればさほどの不便は感じない。また、頼れる親族が近所に居なくとも、ご近所に信頼できる人がいればお願いできる。しかし全般的にそうした信頼のネットワークで繋がれた近隣関係は希薄する傾向であり、それは日本も米国も同様である。
しかし、こうした困りごとをデジタルで解決しようとするサービスがいくつか生まれ始めている。困りごとを抱えた高齢者とそれを助けるお助け者(ヘルパー)をデジタルの力を使ってマッチングさせようとする仕組みである。
基本的な仕組みは以下のようなものだ。最初に困りごとを抱えた高齢者は、オンラインもしくは電話などを通じてプラットフォーマーに依頼事項を伝える。プラットフォーマーは、その依頼事項を予めサービスに登録しているヘルパーの方々にメールなどを通じて連絡する。そして依頼事項を受けても良いと思うヘルパーは、受託したい旨のメッセージを送り、マッチングが成立した後に、ヘルパーは実際のお助けサービスに駆けつける、というものである。いわゆるウーバーイーツなどギグワーク(単発の仕事をこなす働き方)の各種シニアお助け版とも言える。
高齢者が抱えた困りごととそれを助けようとする者をマッチングさせる仕組みは「共有経済(シェアリング・エコノミー)」の一事例であると言えよう。『シェア』の著者レイチェル・ポッツマンは、シェアリング・エコノミーの特徴として、「あまり使われていない資産を個人/事業者からシェアしてもらう経済システム」「提供サービスに価値観に則った明確なミッションがあること」「供給側にいる提供者が評価され敬意を表されること」「プラットフォームの需要側にいる顧客が、より効率に商品やサービスを得られるようになること」「事業が分散型市場、分散型ネットワークで構築されていること」という5つの特徴を挙げている。
一般にシェアリング・エコノミーとして多く語られるケースは住居(民泊)や自動車(配車)だが、未稼働資産は何もモノだけに限らない。「高齢者の困りごとを助ける」という労働力の需給マッチングも十分シェアリングエコノミーの対象である。
「高齢者の困りごとを助ける」ニーズは何も今に始まったことではなく、従前から存在していた。しかしこれを解決しようとするサービスは、家業に毛のはえた程度のスモール・ビジネスとしては存在していたもののスケール化は困難であった。それは、この高齢者の困りごとが、「不定期に発生すること」に加え、「一件あたりのサービス受注金額が少額である」ことに由来する。要は生業として受注するにしても非常に不安定なのである。しかし、デジタル化の動きは、こうしたビジネスの困難性を高齢者とギグワーカーのマッチング・プラットフォーマーという形で解決してくれたのである。
こうしたサービスの実現を後押ししたのは、言うまでもなくスマートフォンの普及によるものである。米国における高齢者(65歳以上)のスマートフォン保有率は2021年時点で61%と6割を超えた。2015年のそれは30%であったから5年間で保有率は倍増したことになる。ちなみに日本の高齢者スマートフォン保有率は60代では67.4%だが、70代38.3%、80代11.0%であり、全般的に比較すると米国よりもまだ低い。(総務省 令和2年通信利用調査)しかし今後、日本でも保有率が米国並みに上昇してくれば、同じようなサービスの市場が芽生えてくるに違いない。
高齢者の困りごとお助けプラットフォーム
■ナボールフォース(Naborforce)
・社名:ナボールフォース(Naborforce)・創業:2018年・本社:リッチモンド・ノースカロライナ州・ファウンダー:ペイジ・ウィルソン(Paige Wilson)・URL: https://naborforce.com/

ナボールフォースは、2018年にリッチモンド(ノースカロライナ州)で創業したデジタルプラットフォームを活用したご近所お助けサービスだ。ちょっとした困りごとを抱えた高齢者は、オンラインで連絡すれば、すぐにお助けサポーターが駆けつけてくれる。
お願い出来る作業は多種にわたる。食事準備や掃除などの各種家事、パソコン、スマートフォンの使い方指導、ペットの世話、食料品の買い出し、処方薬の受け取り、クリーニングの受け取り、図書館の本の貸し出し、病院への付き添いなどという目的性のある用事から、おしゃべりの相手、ゲームやカードの対戦相手などもO Kだ。つまり普通ならば、家族や知人が対応してくれるような作業が何でも頼めるというサービスである。高齢者本人の要望のみならず、遠く離れて暮らす息子や娘たちの要望で、ご両親を訪問し、その際の様子や写真をメールで送ることも可能だ。
こうした作業を担うヘルパー(ナボール(Nabor)と呼ぶ)は、事前にサイト経由で希望し、登録された人々が担う事になる。事前に綿密なインタビューと適正評価、リファレンスチェック(経歴紹介)、過去の犯罪歴や運転記録のチェックを得た上で、万が一に備えて賠償責任保険に入っていることがナボールの条件になる。
利用者は、オンラインか電話で用件を依頼する。マッチングは同社のプラットフォームを通じて自動的に行われる。同日の訪問も可能だが、通常は少なくとも数日前、長い人では1カ月前に予約を入れる人もいるという。
料金体系は、基本時間単位での課金制で、平日(月-金7am-6pm)は時間あたり25ドル、早朝夕刻もしくは週末は(月-金6am-9pm/土-9am-6pm)は30ドルとなる。月間あたり15時間以上の依頼があった場合はディスカウントレートが適用される。サービスは最低1時間から利用でき、その後は5分ごとに課金される。
ナボールフォースの創業者であるペイジ・ウィルソンは、もともと金融業界でキャリアを重ねていたが、その中で母親の介護の必要に迫られ、仕事とケアの両立がどれほど大変か身をもって体験した。
母親が亡くなった後、ペイジは自分のビジネス経験を組み合わせ、他の高齢者とその家族がストレスを軽減し、喜びを取り戻す手助けができるのではないかと考え、ギグ・エコノミーによるソリューションを発想した。そしてナボフォースは、軽いサポートや付き添いを必要としている高齢者と、柔軟な収入を求めている地域の思いやりのある人々をつなぐプラットフォームとして誕生したのである。
現在、プラットフォームのユーザー数は1,000人を超え、500人以上のクライアントと約400人のナボールを抱えるまでに成長している。さらなる事業拡張を目的として、2021年には200万ドルのシード資金調達を完了している。同社では、この資金をベースに、現在リッチモンドが中心の展開エリアを拡張していく予定だ。また戦略的パートナーシップや、このサービスを従業員の福利厚生として提供している企業の開拓も図っている。高齢者の孤立・孤独化が進む中で、こうした社会的にソーシャルエンゲージメント、ケア、サポートに対する需要はさらに高まっていくことになるだろう。
高齢者と若者を繋ぐデジタル・プラットフォーム
■パパ(Papa)
・社名:Papa・創業:2017年・本社:マイアミ・フロリダ州・創業者:アンドリュー・パーカー(Andrew Parker)・URL: https://www.papa.com/

パパ(Papa)もナボールフォースと同様、困りごとを抱えた高齢者とヘルパーを繋ぐデジタル・プラットフォームだが、ヘルパーが若者(大学生)であることが特徴的だ。サービスに申し込むと、パパ・パル(Papa Pal)と呼ばれる大学生が、医者の予約への付き添い、家事の手伝い、技術サポート、同伴などを手伝ってくれる。
2017年にフロリダ州マイアミで設立されたPapaは、CEO兼創業者であるアンドリュー・パーカーが自分の祖父に抱いた個人的ニーズが契機となりスタートした。アルゼンチンから来た祖父は、介護サポートまでは必要ではないものの、サポートや手助け、仲間が必要だった。そこでパーカーはFacebookに広告を出し、“誰かパパの友達になりませんか?”と呼びかけた。集まった大学生に手助けをしてもらったところ、祖父も元気になり、一方で大学生も祖父の人生経験に触れ、双方に得られるものがあることがわかった。そこで、パーカーは同じようなニーズを持つ多数の人々がいると考え起業を決意した。
当初は、コンシューマー向けサービスとして事業をスタート。その後、80社の保険会社と提携し、保険加入のベネフィット(特典)、いわゆるBtoBtoCビジネスとしてこのサービスを提供している。また企業の雇用主も社員への福利厚生としてこのサービスに申し込むことが可能だ。
「プラットフォームには約100万人の対象会員がいて、毎月約15%がPapaを利用しています 」とパーカーはTechCrunch誌に語っている。同社では、2022年1月からのプラットフォーム上の会員数は、500~600万人になると予想している。
パパ・パル(Papa Pal)は、当初は大学生に限定していたが、現在は18歳から45歳までを対象にしている。パパ・パルは、オンラインでメンバー登録後、仕事の選択は全てアプリで行う。アプリで利用可能な訪問先を検索し、気になる訪問先を承認。当日、パパ宅に訪問したらスタートをクリックし、訪問を終えたら完了をクリックする。これで一連の作業が終了となる。
報酬は、最高で時給15ドル。最高で週1000ドルの収入を得ることが出来る。訪問先は、全て自分のスケジュールの都合に合わせて選択することが出来る。また、学業成績と同時にボランティアなどの社会貢献が評価される大学生にとって、パパパルの経験は履歴書の充実となる効果もある、
Papaはその後、総合的なパパ・パル(Papa Pal)サービスとは別に、健康・医療面を重視したPapaHealthをスタート。これは、パパ・パル(Papa Pal)メンバーとして介護などの知見があるメンバーをアサインすると同時に、複数の外部企業と提携し、医療相談やヘルスケアプランを提供しようとするものである。
2020年に全世界を巻き込んだコロナ・ウイルスは、当然のことながら訪問を前提とするPapaの活動に大きな影響を及ぼした。こうした環境下で、Papaが新たに開始したのが、バーチャルな形でPapaPalとつながるバーチャル・コンパニオンシップである。これはオンライン上で会話を楽しもうとするもので、コロナ環境下でメンバーが感じる孤独感や寂しさを会話を通じて解消しようとするものだ。
2021年4月にPapaは、ベンチャー投資企業であるTiger Global Managementの主導により6,000万ドルの資金調達(シリーズC)を行い、これまでの調達総額は9,100万ドルとなった。一般にシリーズCは、投資ラウンドとして安定的な成長、黒字化が見込める段階に入ってきていることを意味している。Papaは、2021年初頭時点の成長率は前年比600%であると述べているが、この成長はパンデミック終了後もしばらく続きそうである。
スマホアプリサービスを代行する
■ゴー・ゴー・グランドペアレンツ(Go Go Grandparent)
・社名:Go Go Technologies, Inc・創業:2016年・本社:サンフランシスコ・カリフォルニア州・CEO:ジャスティン・ブガード(Justin Boogaard)・URL: https://gogograndparent.com/
現在、米国内で急成長しているウーバー(ライドシェア)、ドアダッシュ(フードデリバリーサービス)、インスタカート(食料品配達)といったシェアサービスの多くは、スマートフォンのアプリ利用が前提だ。近年、シニアのスマホ保有率は高くなってはいるものの、全ての高齢者がこうしたサービスを自在に使いこなせているわけではない。年齢を重ねると、こうした新しいサービス利用に困難を感じる高齢者は確実に増えるのである。サンフランシスコを拠点とするゴー・ゴー・グランドペアレンツは、こうした新しいアプリ・サービスを高齢者でも使えるように、24時間サポートするサービス代行会社である。
具体的な仕組みは極めて簡単である。ライドサービスや食料品の配達を希望する高齢者は、ゴー・ゴー・グランドペアレンツの番号に電話をかける。その後、必要とするサービスに応じて、プッシュ番号を押すだけである。例えば、ダイヤル1を押すと、自宅にウーバーやリフトを呼ぶことができる、2を押すと、前回お客様をお迎えした場所にウーバーやリフトを呼ぶことができる、ダイヤル7を押すと、ウーバーイーツなどを利用して食事の配達をお願いすることができる、ダイヤル8では、スーパーから食料品の配達をお願いすることができる、といった具合である。
またゴー・ゴー・グランドペアレンツは、車の送迎、食事の配達、食料品の配達といったアプリサービスが普及しているサービス代行以外のサービス提供にも応じている。芝生の手入れ、家の掃除、雨どいの掃除、電球の修理、車道の雪かきなど、家の雑用やメンテナンスなどについても、身元確認や審査を受けた業者をリスト化し、つなげるサービスなども行っている。
ゴー・ゴー・グランドペアレンツは、こうしたシニアのニーズに応じて、必要とされるサービス提供者に情報を提供すると同時に、それらの運用が適切に行われているかどうかコンピュータネットワークを通じて管理モニタリングし、必要に応じてサービス提供者に改善を要求し、調整を行ったりする。
例えば、ウーバーによって、割り当てられた車が、お客様が事前に指定した要件(例えば、歩行困難な人にとって大きすぎるか小さすぎるか、ドライバーは高齢者に慣れているか、トランクは車椅子や荷物を入れるのに十分な大きさか、など)を満たしているかどうかを確認し、適切でない場合は、車の変更を要求するといった一連の操作をお客様に代わって行う。
また、例えばドライバーが遅れている場合はお客様に報告し、乗車後に何か必要な場合は緊急連絡先としてゴーゴーを利用することができる。特定の好みや食事制限がある場合は、お客様に代わってそうした条件に該当する食料品配送サービスやレストランに連絡する。
ゴー・ゴー・グランドペアレンツのコンシェルジュ料金は、乗車開始時から1分ごとに$0.27、さらにこれにベンダーの運賃がかかる。このコンシェルジュ料金は、24時間365日体制のコールセンター、コンピューターサーバー、エンジニア、およびゴー・ゴー・グランドペアレンツを消費者に提供するためのその他の費用に充当される。
このような、ゴー・ゴー・グランドペアレンツのサービス内容は言ってみれば、「現代の御用聞き」に他ならない。従来は、人的に提供されていた各種サービスが、現代の各種情報技術により大幅に手軽くかつ安く利用することができる時代になった。しかし、こうした技術革新を伴うサービスには、高齢者をはじめ一定のレイトカマーが確実に生じる。ゴー・ゴー・グランドペアレンツは、そうした人々を救うサービスである。
ゴー・ゴー・グランドペアレンツの代行サービスは、コロナ禍でも有効に機能した。カリフォルニア州のアラメダ郡知事は、感染リスクの高い高齢者に食事を提供する「グレート・プレート・デリバード(Great Plates Delivered)」プログラムを郡主導で発動させたが、その際のデリバリ・パートナーシップとなったのがゴー・ゴー・グランドペアレンツだった。このプログラムは流行開始時にスタート、2020年12月にいった終了したが、その間に20万食の食事が高齢者に運ばれたのである。
地域的繋がりである社会関係資本は希薄化しているとこの章の冒頭で述べたが、パンデミックや災害といった緊急事態発生時に最初に危険に晒されるのは高齢者であることが多い。そういった場合に、地域の社会的繋がりが少なくとも、こうしたシステマティックなITインフラがあれば、完全とは言えないまでもある程度の代行が果たせると感じさせる出来事でもある。
高齢者と子供たちを繋ぐオンライングローバルヴィレッジ
■エルデラ(Eldera)
・社名:エルデラ(Eldera)・創業:2020年・本社:New York NY・CEO:ダナ・グリフィン(Dana Griffin)・URL:https://www.eldera.ai/
「年長者の時代」を意味する“エルデラ”は、豊富な人生経験を持つシニア世代と、何事にも関心が強く新しいことを学びたいと考える子供世代をつなぐバーチャルビレッジとして2020年に設立された。このビレッジに参加できるのは、60歳以上の“メンター”と、主に8歳から13歳までの”子供たち”である。彼らはZOOMを通じて相互に交流を深める。オンラインでの交流内容はさまざまである。算数など宿題の個人指導を行う場合もあれば、本を読んだり、昔話をする場合もある。単なる会話だけでもO Kの場合もある。メンターと何をしたいかは、基本的に両親を通じて、エルデラに要望が伝えられ、ニーズにマッチングしたメンターがセレクトされる。多くの場合、週に30分から90分程度のメンターと子供たちの交流が行われる。
シニアのメンターは子供との交流で、元気をもらうと同時に、社会の役に立っているという自己効能感が得ることができる。一方で子供たちメンターとの会話を通じ、自分の親とは異なる先人の知恵や人生経験に触れることができる。ともにウィン-ウィンの構図である。
メンターになりたいと考える高齢者は、エルドラに登録希望を送ると、その後審査を受ける事になる。過去の経歴や犯罪歴チェック、面談、オリエンテーション、トレーニングを経て、マッチングに臨むことになる。また会話は自動的に録音され保存される。
一方、子供たちは、最初は両親を通じて氏名とメールアドレスを登録してもらう。その後エルドラから、子供がどのようなことに興味を持っているか、参加可能な時間などについての問い合わせがあり、その後エルデラからマッチングされたメンターの情報が届く事になる。
エルデラのメンターは主にアメリカがベースとなっているが、参加する子供たちはアメリカにとどまらず、ブラジル、ドイツ、ケニア、韓国など20カ国に広がっている。その意味でエルデラは国際交流的な側面も持っていると言えよう。
善意の助け合いオンライン・コミュニティ
■ヘルプ-フル(Help-Full)
・社名:ヘルプ-フル(Great Call)・創業:2016年・本社:オークランド・カリフォルニア州・Co-Founder and CEO:ジェニー・ギャラガー(JENNY GALLAGHER)・URL: https://help-full.com/
ご近所との交流が次第に希薄となる中で、ちょっとした困りごとや頼みごとをお願いすることが難しい時代なのは米国も同様である。カリフォルニア州オークランドに本社を持つヘルプ-フルは、そうした環境下、ちょっとした願い事や頼み事を、頼んだり、頼まれたりする、相互関係の輪を形成するためのオンライン・コミュニティである。
その仕組みは簡単だ。まず誰かスーパーまで送って欲しい、庭の掃除を手伝って欲しい、一緒にボードゲームを楽しみたいなどのリクエストをコミュニティに投稿する。コミュニティ参加メンバーは、投稿されたリクエストやお願いごとの中からやってもいいと思うものに対してオファーを送ることでマッチング成立する。そして、ここがヘルプ-フルのユニーク・ポイントでもあるのだが、お願い事を受けた返礼として受け取るのは、自分が同じようにお願い事を頼める「タイム・トークン(Time Token)」という時間通貨だ。1タイム・トークンは、1時間のお願い事を頼むことができる。
このタイム・トークン=時間通貨の仕組みは、日本でも以前からいくつかのN P Oやボランティ団体が採用して活動している。例えば、1994年に設立されたニッポン・アクティブライフ・クラブ(通称ナルク)は、早くから「時間預託制度」として、会員に対して提供したサービス(家庭援助・家事援助・介助など)の活動時間を点数としてナルクに預託(貯蓄)し、いずれ自分がサービスが必要になった際に活用できるという仕組みの普及に取り組んでいる。いわばこのヘルプ-フルによるタイム・トークンは、時間預託の米国版とも言えそうなものであるが、利用範囲はより広そうだ。つまり、困りごとや出来ないことのサポートだけに限定されるのではなく、新しい地域に引っ越して来た際に、地域の知り合い人脈を作りたい、といったことや、新しい学びごとをしたい際の先生探しや、同じ趣味の仲間を探したいといったことにも活用できるといった意味で、より広い形でのオンライン・コミュニティ・マッチングサービスであると言えるだろう。
ヘルプメンバーとして登録する際には、バックグラウンド・チェックが行われ、運転履歴などのチェックがなされる。また、実際の活動結果はコミュニティのフィードバックとしてレビューされるので、結果として評価が低い人には頼まれなくなっていくという仕組みだ。
高齢者の困ったを助けるテック・コンシェルジェ
■キャンドゥ・テック(Candoo Tech)
・社名:キャンドゥ・テック(Candoo Tech)・創業:2019年・本社:New York NY・Founder:リズ・ハンバーグ(Liz Hamburg)・URL:https://www.candootech.com/
デジタル・ディバイドとは、「インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者とできない者との間に生じる格差」(平成16年情報通信白書)」を指す。格差は、さまざまな社会的条件・身体的条件・地理的条件によってもたらされるが、いつの時代でも高齢者は新しいテクノロジーに取り残されがちである。特に近年は、PCからスマホやタブレットにデバイスの中心が変化し、オンラインショッピングから、ウーバー・イーツなどアプリサービス、スマート決済、WEB会議システムなど、新たなサービスが目白押しである。
キャンドゥ・テックは、高齢者に特化した形でさまざまなデジタル・サービスの技術サポートやトレーニングを比較的安価な価格で提供する企業である。
同社のサービスの基本は、”テック・コンシェルジュ "による1対1での技術サポートの提供である。高齢者の実情をよりよく理解するために、テック・コンシェルジュは、事前に専門家から高齢者の加齢に伴う状態変化を理解する講義トレーニングを受けた上で技術サービスを提供する。例えば、黄斑変性症の高齢者には暗い背景に明るいフォントを使う、難聴者には音声出力を補聴器に接続するといったことなどにも対応する。何よりも重要なのは、高齢者の立場に立ったアドバイスを行うことだ。例えばウェブを閲覧するにも、「ブラウザーを開いてください」と言うのではなく、「画面左下にあるコンパスの形」と言うことが重要なのである。
キャンドゥ・テックの創設者であるリズ・ハンバーグが、このビジネスを思い付いたきっかけは彼女の父親にある。彼女の父親は、各種のテクノロジーを使いこなせていたにもかかわらず、年齢とともに少しずつ苦労することが増えてくるのを目の当たりにし、この分野にニーズがあることを確信した。
同社のサービスは、基本的に月額制のサブスクリプションサービスとなっており、月15ドルという低価格で、無制限の電話サポートとリモートサービスを利用することができる。また、単発でのサービスも50ドルから用意されている。
コロナ禍以前、テック・コンシェルジュは顧客と直接顔を合わせるのを基本としていたが、パンデミック後は全てオンラインとなった。しかしそれにもかかわらず顧客数は拡大し、現在では全国29州で数千人のユーザを抱えるに至っている。現在の同社の顧客は個人に加え、ケアマネージャー、高齢者施設、社会福祉団体など多岐に渡る。これら団体は高齢者とのコミュニケーションの際、デジタル機器を活用したいと望むにもかかわらず、使えない高齢者も存在する。そうした時にキャンドゥ・テックは、組織と高齢者個人をつなぐ橋渡しの役割を担ってくれる事になる。