どうすればシニアの信頼を勝ち得るか
シニアマーケティングを考える際のポイントのひとつに、いかにシニアの信頼を得るかということがあります。
シニアは長年にわたる購買体験を通じて自分なりの価値観を持っている人たちです。
そうした人たちに対して、いかに自社の商品価値を理解していただくのは簡単なことではありません。シニアに刺さるアピールポイントを考えてなくてはなりませんが、そのひとつに「権威づけ」があります。
商品の価値を自らが語るのではなく、それぞれのジャンルの有識者や学識経験者などに有用性を語ってもらうという手法です。
商品の差別化が困難化している現在、さまざまなパターンでこうした「権威づけ」の手法が開発されています。そうした中で、今回はヘルスケアの分野での「権威づけ」事例をいくつか紹介していきたいと思います。
最近増えた「・・推薦商品」
最近、飲料や健康食品に「お医者さんが推薦」「管理栄養士が推薦」「人間ドック健診協会が推薦」など、専門家や専門団体が推薦する表示やマークの入った商品を眼にする機会が増えています。
具体的にどのような表示やマークなのか、いくつか例を挙げてみましょう。
栄養ドリンクの商品に対する推奨意向を示すのは、「AskDoctors(以下アスクドクターズ)」マーク。(写真左)この商品ではパッケージに、マークとともに「医師100名中93%が推奨」という表示が書かれています。また、野菜ジュース(写真中央)には、「管理栄養士推奨」という文字が、豆乳(写真右)には、「日本人間ドック検診協会推薦」という表示が書かれています。推奨という表現以外にも、厚生労働省の「健康日本21」にちなんだ表示や「トクホ(特定保健用食品)」の表示もパッケージ上に並んでいます。
医者や管理栄養士、専門団体など、その分野のプロフェッショナルが推奨する商品なら信頼が置けるので安心して購入できる。そう考えて商品を購入された方も多いのではないでしょうか。
「権威づけ」となる専門家の推奨
商品の信頼度を、専門家の推奨により担保し、格上げする。こうした手法は、マーケティング用語で「権威づけ」と呼ばれ、商品の差別化が困難になる中で有効な手法として、近年多くの企業に採用される傾向にあります。SNSにおけるインフルエンサーによる推奨なども、広義に捉えれば、この範疇として捉えることが出来るかもしれません。健康食品やトクホ(特定保健用食品)など、健康関連の飲料や食品のジャンルで、こうした専門家や専門団体による推奨が行われるのは、商品の利用者の多くが成人・中高年という「権威づけ」に弱い層という理由もあるかもしれません。
しかし、医師が推薦、管理栄養士が推薦と言っても、日本全国に医師は34万人も存在しています。管理栄養士もおそらく30万人はいるでしょう。その中で一体どの医師が、どの関連団体が、これらの商品を推薦しているのでしょうか。当然のことながら、商品を推薦するためには、そのための仕組みが存在します。それらを少し紐解いてみましょう。
医師、管理栄養士が推薦する仕組み
まず、医師が推奨する仕組みについてです。これを運営するのは株式会社M3(以下エムスリー)というプライム市場上場企業で、同社はオンライン上で医療従事者用の専門情報サイト「m3.com」や、医師に相談できるサービスサイト「アスクドクターズ」などを展開しています。エムスリーによると、同サービスには、日本の医師の9割以上の32万人が登録しており、この強みを活かして、会員医師に対するアンケートを行い、その結果に基づいて商品評価を行うというサービスを構築しています。
管理栄養士推奨の仕組みを提供するのは、グロース市場に上場する株式会社ファンデリーです。同社は栄養士による宅配サービスや、健康食品通販サービス、管理栄養士や栄養士のコミュニティサイトを運営しています。エムスリーと同様に、管理栄養者のコミュニティネットワークを通じたアンケートを通じて、商品評価、推奨の仕組みを構築しています。
具体的な評価の方法は、例えば「アスクドクターズ」の場合は、以下のとおりになります。
まず、対象となる商品を医師100名に送付し、実際に試してもらいます。次に、アンケートでその商品を「他の人に勧めたいか」どうか回答してもらいます。その結果、「是非勧めたい」「勧めたい」の合計が約9割であれば、「医師の確認済み商品」として認定するというものです。(選択肢は、前記2つに加え、「勧めたくない」「全く勧めたくない」の4択)認定されれば、写真のようなマークの使用が認められます。
また日本人間ドッグ健診協会推薦の場合は、同協会ホームページによると、「人間ドックや健康診断で予見し得る生活習慣病の一次予防に役立ち、特に健全な食習慣と運動習慣を家庭において継続的に行うことを目的とする食品や機器あるいは健康サービス等を推薦する制度」であるとして、推薦要件などが規定されています。
これ以外にも、さまざまな「権威づけ」の手法は存在しています。スーパーマケットやドラッグストア、コンビニの商品をつぶさに観察していけば、そうした「権威づけ」のヒントで得ることができるはずです。
こうした「権威づけ」の仕組みを理解した上で、うまく活用していくことで、シニアの商品に対する信頼性は向上していくでしょう。