「令和シニア」「デジタル・シニア」に潜むあやうさ
長年マーケティング業界に従事して気がつくのは、際限なく新規性と差別性を求めようとするこの業界の体質です。
「これが最新のAIを活用した分析メソッドです」
「いまどきの若者のインサイトはこれです」
「最前線の業界動向をお伝えします」
マーケティング業界関係者は、最新の情報や手法をベースにして対象とする顧客の攻略法を教授しようとクライアントに対して試みます。
時代変化と共に顧客心理は常に変化し続ける。それを理解することが、顧客アプローチの第一歩になる。そして「顧客像の最前線」は、次々とアップデートされていくのです。
・X世代を読み解く
・イマドキのワーキングママスタイル
・中高年世代の抱える生活課題は何か
こうしたインサイトが、マーケティング業界関係者から続々と新しいインサイト・アテンションとして提供されていきます。
高齢者についてもアップデートされた新しい高齢者像が同じように描かれていく。それを象徴的に表現するワードが、「令和シニア」と「デジタルシニア」です。
イマドキの高齢者は、従来の高齢者とは異なります。かつての高齢者は、テレビ、新聞といったマスメディア中心で、スマートフォン、SNSといったデジタル利用は今ひとつでした。しかし現在のシニアの多くはスマホを所持し、LINEを日常的に利用しています。ユーチューブも多くのシニアは閲覧し、SNSでも男性はフェイスブックを、女性はインスタグラムを利用しています。
こうした説明は間違いではありません。確かに時代とともにデジタル・リテラシーに通じた人々が高齢者の仲間入りを果たすことで、高齢者の姿はアップデートされてきます。もしかすると、そこにシニア像を理解するヒントは隠れているかもしれません。
但し、ここで注意しなくてはならないのは、高齢者の中の「新しさ」のみを特徴的な事象として取り上げることに潜む"あやうさ"です。最前線の差異性(ここではデジタル)を理解することは、シニア理解の一面にはなりますが、それはあくまで一面であり、トータリティの理解には程遠いとも言えます。
従来のシニアと異なり、イマドキのシニアは、さまざまな情報を自らの力で探り当てていくアグレッシブなシニアである。これからのシニアはパッシブ(受動的)な高齢者ではなく、アクティブな高齢者である。
と、対象は魅力的なターゲットであると説明するのがマーケティングの常道手段でもあります。
過去のシニア・マーケティングの歴史を振り返っても、新しいシニア像の提示は常に行われていました。
「スマート・シニア」という表現は、インターネットの普及が広がりつつあった今から四半世紀前の2000年前後に唱えられていたものです。
その後2007年前後には、団塊世代が60歳定年を迎えることから「団塊世代」が、新しい高齢者のモデルとして奉られ上げました。
こうした流れが延々と続き、最近は「令和シニア」「デジタルシニア」という表現が踊っているというわけです。
シニアを理解するためには、「新しさ」だけでは不十分です。
高齢期という人生の後半期に起きるライフステージの変化や身体や認知に起きるさまざまな変化。そうした変化が引き起こす心理変化や課題をきちんと理解することが重要です。
そうしたシニアを理解するためのさまざまなヒントを、今後このコラムで紹介していきたいと思います。