第3回 エイジング・イン・プレイス(在宅で老いる)

連載第3回からは、具体的なエイジテック企業の紹介をしていく。第3回のテーマは、「エイジング・イン・プレイス」である。紹介は、主に米国や欧州の企業が中心である。調査年が2020-21年となるため、一部情報はアップデートされる必要があるかもしれない。その点にはご留意いただきたい。

エイジング・イン・プレイス

エイジング・イン・プレイスとは、住み慣れた地域で、その人らしく、最後まで健康的・快適に暮らせることを意味する。出来るだけ介護施設や病院の世話にならず、自宅での生活を出来るだけ長く維持するためには、何らかの形の外部サポートが必要とされる。特に要介護となり障害を抱えた場合はなおさらである。高齢夫婦もしくは単身で生活を営む場合には、生活を維持していくためのサポートや、もしも何かが起きた場合の備えや対応方法が重要になってくる。住宅の中にセンサーを設置し、日常活動をモニタリングしたり、日々の健康状態をチェックする仕組みは、エイジング・イン・プレイスのためのテクノロジー面からの支援のひとつと言えるだろう。オンライン処方箋による医薬デリバリーのシステム、日々きちんと薬が飲めているかという服薬管理、さらにはリモートによる在宅介護など、スマート在宅医療・介護の分野も重要となる。

スマート・ホーム

高齢期をどこで住まい、どこで老いるかは極めて重要なテーマである。自分の暮らした続けた場所で高齢期を過ごし、最終的に最後を迎えたいと、日本に限らずどの国の人々も考える。しかし、実際にはそうならずに医療施設や介護施設で終末を迎える人も多い。

高齢期に安心して在宅生活が続けられない最大の理由は、安定的な在宅での医療体制や看護・介護体制が供給できなかったからである。しかし近年では、地域包括ケアという名の元で、訪問医療・看護、きめ細やかな介護サービスを供給しようとする動きも行われている。

エイジテックの視点から見た場合、安心できる在宅生活をテクノロジー面からいかに支援していくかが重要なポイントとなる

高齢者が在宅生活を続けていく上では重要なポイントとしては、住まう家そのものが高齢者にとって危険となる場合がある。高齢者にとっては、家の中にも数多くの危険が潜んでいる。滑りやすい床、上り下りの大変な階段。つまづきやすい段差をはじめ、トイレや浴室などの寒暖差なども、高齢者に危険をもたらす可能性がある。

日常の健康状態を管理するために、毎回、わざわざ血圧計や体温計、体重計などの計測機器を使用しなくとも、家庭内でシームレスかつ非接触な状態で、バイタルデータが取得可能なセンサーや機器が設置され、健康管理が可能な住宅、すなわちスマート・ホーム・フォー・ヘルスの実現は多くの人々が望むことだろう。そして、そのような動きが少しずつ始まりつつある。

スマートバスルーム

家の中で、バイタルデータを最も自然な形で入手できる場所は、なんと言ってもバスルームだろう。バスタブやトイレは日常生活で必ず使用されるものだし、入浴や排泄の機会を通じて、自然にデータが入手できるのであれば、それに越したことはない。

当然こうしたことに対し、A Iやビッグデータ先端企業は敏感である。Googleは、2016年に「非侵襲的に心臓の健康状態やその他の機能の状態や傾向を把握することができる(Noninvasive Determination of Cardiac Health and Other Functional States and Trends for Human Physiological Systems)」という特許を提出している。この特許は、人間の健康状態を評価するためのさまざまな健康モニターで構成されている。Googleバスルームは、超音波バスタブ、色感知ミラー、マットなどで構成されている。それぞれは異なる目的のために設計されているが、個人の健康データを収集することに関しては、驚くほど非侵襲的なものである。

手作業で体に装着するウェアラブルとは対照的に、Googleバスルームのコンセプトは、朝の日課としてシームレスな健康分析を提案するものだ。いずれこうしたトータルな形でのスマートバスルームも実現するかもしれない。

スマートトイレ

現在、先行して開発が進みつつあるのは、バスルームの一部でもあるスマートトイレである。

実はこのスマートトイレ分野、日本企業が世界に先駆けて開発した実績がある。大和ハウスとTOTOは、2005年に生体情報測定が可能な「インテリジェント・トイレ」を共同開発。2008年にはさらに改良を重ねた「インテリジェント・トイレII」を発表した。この機器では、「尿糖値」「血圧」「体重」「尿温度」「B M I値」などの値を測定することが可能であった。今から10年以上前に開発された。このインテリジェント・トイレは世界の最先端を走るものであったが、残念ながらその後、販売休止となった。休止の最大の理由は販売価格である。便器としては、相当高額(30~60万円)であったため、販売が芳しくなかったのである。

しかし、現在TOTOでは、当時のノウハウを活用しながら、さらに改良を加えた「Wellness Toilet」の開発を進めている。このトイレは、上記のスマートトイレ同様、人々の日々の排泄物を精査し、さまざまな病気のマーカーを探そうとするものである。TOTOが開発を目指すWELLNESS TOILETは、複数の最先端のセンシング技術を用い、消費者の心身の状態を追跡・分析し、消費者のウェルネスをサポートしようとするものだ。WELLNESS TOILETに座るたびに、生活者の身体とその主な排泄物をスキャンし、消費者の健康状態を改善するための提案を行う。日常生活の中で、トイレに行くたびに自分の健康状態を簡単に確認することができ、スマートフォンのアプリ・ダッシュボードには、現在の健康状態が表示され、改善のためのアドバイスが表示される。

同社では、AIを活用した高度な健康モニター付きトイレの開発に協力してくれるパートナーを求め、2017年以降、数十人の社員で構成される同社のスマートトイレタスクフォースは、パートナーを求めて米国内外の100社近くに接触している。TOTOは複数のスタートアップと協力し、センサーの小型化や人の排泄物の分析を行い、2021年1月にオンラインで開催された家電展示会CESに試作品を出展している。

健康状態を把握するスマートトイレ

■トゥルーロー(TrueLoo)

・社名: トワ・ラボ(Toi Labs)・創業:2018年・本社:サンフランシスコ・カリフォルニア州・CEO:ヴィック・カシャップ(Vik Kashyap)・URL: https://www.toilabs.com/

スマートトイレの開発は各社がしのぎを削っている。米国カリフォルニアのトワ・ラボ(Toi Labs)社が開発する「トゥルーロー(TrueLoo)」は、ビデのように数分で設置できるスマート便座である。

トゥルーローは、画像センサー技術を用いて排泄物を分析し、高齢者のさまざまな泌尿器系や消化器系の疾患を検知するのに役立つ。明らかにできる疾患情報は、脱水症状、尿路感染症、クロストリジウム・ディフィシレ(C. difficile、C. diffとも呼ばれる)やノロウイルスなどである。これらの病気は、高齢者の間では大きな問題であり、しばしば入院につながることもある。

トゥルーローの便座には、画像センサーが設置されており、これが排泄物を測定する。A Iを活用した画像データ分析から病気や障害の兆候を発見する。これにより、脱水症状やウイルス感染、高齢者が経験する最も一般的な感染症である尿路感染症などの可能性を検出することができる。トゥルーローは高齢者施設での使用が想定されており、測定されたデータは介護チームのダッシュボードに送信される。

「トゥルーロー」を開発したトワ・ラボの共同設立者兼CEOであるヴィック・カシャップ氏は、「私たちは未来のバスルームを作っている」と語る。Kashyap氏が開発しようとした発想の契機は、彼自身が潰瘍性大腸炎を患っていたからだという。彼は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者の協力を得て、自分の便を分析しつつ、実験的な治療を試みた。この4年間の研究成果は、2010年に『サイエンス』誌に掲載され、個人の健康状態を把握するための「スマートトイレ」の開発に向けた本格的な取り組みが始まった。同社は、サンフランシスコ・ベイエリアの高齢者施設でテストを行ない、現在は先のTOTOなどのバックアップを得て一般消費者向けに販売されている。

スマートトイレ開発の試みはトワ・ラボだけに留まらない。

ロチェスター工科大学を起点とするカサナ(Casana)社のスマートトイレ、ザ・ハート・シート(The Heart Seat™)は、心拍数、血圧、酸素濃度、心拍出量などのヘルスデータを収集し、その内容を分析することで、健康状態や時系列の傾向を独自に把握することを目的に開発が進められている。

またシカゴ大学のグループが設立したスタートアップ「バイオームセンス(BiomeSense)」は、腸内マイクロバイオームのデータを収集するためのスマート便座を開発している。

スマートフロア

バスルーム以外にも、家屋スマート化の試みは様々な形が考えられる。

ドイツのフューチャー・シェープ(Future Shape)社が開発したセンスフロアー(SensFloor®)は、転倒を検知し、転倒時に直ちにアラーム信号を発するスマートフロアである。これは、マイクロエレクトロニクスとセンサーを内蔵したテキスタイルベースの下敷きで、ほとんどの種類の床材(PVC、カーペット、ラミネート)の下に設置できる。人が床の上を歩くと、センサーの信号が制御ユニットに送られる。このシステムは、人が床の上に立っているか寝ているかを区別できるよう設計されている。こうした情報は、在宅介護の現場では、医療スタッフや介護士が異変を察知したときに、重大な事故を未然に防ぐために重要な情報となるはずだ。

見守り・緊急対応

シニア携帯から見守りデバイスに

■グレート・コール(Great Call)(ベストバイ・ヘルス(BestBuy Health))

・社名:グレート・コール(Great Call)・創業:2006年・本社:サンディエゴ・カリフォルニア州・CEO:デボラ・ディサンゾ(Deborah DiSanzo)

URL: https://www.lively.com/

商品:ラインナップ(左からJittebug、Livelym、ライブリィ・モバイル・プラス、ライブリィ・モバイル・プラス)写真提供:グレート・コール

グレート・コール(Great Call)は高齢者向けのモバイルデバイス、携帯電話サービス、ウェララブルデバイスを提供するコネクテッド・ヘルス・カンパニーである。

2005年創業の同社は、当初から高齢者を対象にアクセシブルなテクノロジーとサービスを提供することを目的とし、同年にシニア向けスマートフォン「ジルバ(Jitterbug)」を発売した。

ジルバは、機能を簡略化、電話、テキスト・メッセージ、インターネット、地図などに絞り込むなどして、煩雑な操作を嫌がる高齢者の利便性を高めている。ここまでは日本にも数多くあるシニア向け携帯と同様であるが、グレート・コールは単なるシニア向け携帯に止まらず、その先にさらに進んだ。

同社は、2009年に遠隔医療や看護師による電話アドバイスを行うフォネムド社(FONEMED)と提携し、24時間いつでも登録看護師に相談できるサービス、アージェント・ケア(UrgentCare)を開始した。さらに 2011年には緊急事態が発生した場合、ボタン一つで緊急応答エージェントに連絡できる5スター・サービス(5star)を開始。IAED(国際緊急援助隊のアカデミー)認定のエージェントは、GPSで位置を特定し、緊急事態の状況を把握。必要に応じて、緊急サービスへの電話、ロードサイドアシスタンスや鍵サービスの手配、家族への連絡などを行うというメディカル・アラートを備えている。

これらシニア特有の健康不安や、緊急時に備えるためのサポート機能を備えることにより、グレート・コールは、単なる携帯電話から、健康かつ安全に暮らしたいと考えるシニアの人々のニーズをサポートする企業への発展を遂げた。

現在、グレートコールの提供するデバイスは、スマートフォン(Jittebug)、フィーチャーフォン(Lively)という2種の携帯電話に加えて、メディカル・アラート・サービスに特化したライブリィ・モバイル・プラス(Lively Mobile Plus)、一般のスマートフォンにインストールしてしたアプリと連携してメディカル・アラート・サービスが提供できる腕時計型ウェラブル・デバイスライブリィ・ウェアラブル(Lively Wearable)をラインナップしている。

 利用プランの安価さも特筆である。最もポピュラーなスマートフォンJittebug Smart2の本体価格は74.99ドル。月額利用サービスは、無制限の通話に、メディカル・アラート、看護婦アドバイス、介護者に携帯利用者の状態を知らせる見守りサービス(GreatCall Link)をオプションとして加えた月額利用料金が47.48ドルである。一般のスマートフォンの月額利用料金が40ドル程度だから、それとさほど変わらない価格で、緊急事のメディカル・アシスト・サービスが受けられるというのはお得感がある。(ただし、データ利用を無制限にすると80ドル程度)ブレインフィットネスエクササイズのリーディングカンパニーであるポジット・サイエンス(Posit Science)が提供する無料で利用できる脳トレゲームなども搭載されている。

グレート・コールは、ヘルスケア・サービスにとどまらず、近年さらにそのサービスの幅を拡張している。

そのひとつが、ライドシェア・サービスを提供するリフト社(Lyft)と提携した「グレート・コール・ライダーズ(GreatCall Rides)」である。これは、どこか行きたい場所がある場合、 “0” をダイヤルし、パーソナルオペレーターに場所を告げると見積もりが提供されると同時に、ドライバーが迎えに来てくれるというサービスである。

一般的にライド・シェア・サービスは、スマートフォンやタブレットのアプリを本人がダウンロードし、会員登録した上で利用するのが一般的だ。しかし、高齢者にはアプリをダウンロードするといった慣れないことや新しいことに対しては心理的抵抗が生ずる。アプリをダウンロードさせるのではなく、その間にオペレータを介在させることで心理的抵抗を下げようとしているところが、高齢者のエクスペリエンス・デザイン設計として優れた点である。

2018年8月、グレート・コールは全米最大の家電専門店チェーン、ベスト・バイ社(Best Buy)によって、8億ドルで買収された。これにより、グレート・コールは、ベスト・バイのオン&オフラインの販売チャネルを活用することが可能になったわけで、実際、それにより米国内のみならず、カナダ、メキシコまで販売の場が広がっている。そして現在、グレート・コールはベスト・バイのヘルスケア子会社ベスト・バイ・ヘルスの事業部門として事業展開を行なっている。

携帯電話に緊急ボタンを搭載するという発想が、シニア向け携帯電話と言うある意味、時代遅れになりかねない商品を新しいデバイスに蘇らせた。一方、何か起きた際の緊急呼び出しデバイスも、米国でも相当1970年代から販売されていたものの、殆ど市場ニーズを得ることができなかった。

長年この市場で緊急時の呼び出しデバイスを販売しているライフ・コール社が20年以上放映しているテレビコマーシャルのキャッチフレーズ、「”倒れちゃったの、起き上がれない!(I’ve fallen and I'm not up!”)」と言うフレーズは、数多くのコメディアンにパロディとして取り上げられるほど、多くのアメリカ人の認知を得たが、米国の65歳以上の緊急応答サービス加入率は2004年時点で2%程度にしか過ぎなかった。こうした緊急応答サービスが普及しない理由を、MITクーグリム教授は、「誰も欲しいと思わないからだ」と語る。

「自分の死期が迫っていることを証明するものがアホウドリのように首にかかっていては、社交的になったり、楽しんだり、友達と一緒に行動したりすることは難しい。」

しかし単体の緊急応答サービスはニーズが無くとも、日常的に使用する頻度が高い携帯電話にこの機能が搭載されており、そのコストがさほど高くなければ、持つことによる安心感と利用価値は大きく高まることになる。

高齢者、認知症者の迷惑電話を防止する

■テレカーム(teleCalm)

・社名:テレカーム(teleCalm)・創業:2015年・場所:フリスコ・テキサス州・CEO: タビス・シュリーファー(Tavis Schriefer)

URL: https://www.telecalmprotects.com/

警視庁発表によれば、日本の特殊詐欺事件の発生件数は年間で13,550件を数え、被害総額は285億2,335万円(2020年)にのぼるという。単純平均すれば1日37件の詐欺事件が起きていることになる。これらの多くは高齢者を対象に電話による詐欺手法である。

米国においても、日本同様の被害は生じている。トゥルーリンク・フィナンシャル(True Link Financial)社によると、高齢者は合法的な欺瞞的手法的詐欺も含め毎年365億ドルの損失を被っているという。手口も日本と同様のオレオレ詐欺、税督促などの電話詐欺が多い。

このようなオレオレ詐欺による被害防止のための電話サービスがテレカーム(teleCalm)である。

テレカームに加入すると可能となるのは主に以下の3項目である。

ひとつは、高齢者を対象とする特殊詐欺や押し売り電話の防止である。予め登録された対象番号をテレカームは認識。電話がかかってくるとフィルタリングし、高齢者に繋ぐのを防ぐ。

もうひとつは、被害防止ではなく、加害を防止する機能である。具体的には、アルツハイマー病などの認知症を患った家族の電話に関する問題行動を未然に防ぐことである。認知症になると、不規則行動や繰り返しの行動をとってしまうことがある。場合によっては、同じ人に何度も電話をかけ続けるといった行動をとってしまう場合もある。これは、介護する者や他の家族にとって非常に迷惑な行動でもある。

テレカームは、そうした行動に対して予防線を張ることが出来る。例えば、深夜に家族に電話する行動を取る場合には、あらかじめ登録しておいたメッセージ、例えば、「お母さん、もう夜遅いから私たちは寝ているよ。明日の朝、また電話してね。」と留守番電話で流すことが出来る。

また場合によっては、深夜不安に駆られ、警察に通報する(911通報)ような行動も見られる。そうした不適切な通報を行った場合には、同時に家族や関係者にテキスト・メッセージで警察に通報したアラームを送ることができる。これら通知の各種設定はアプリで行うことが可能だ。不慮の事態に備える各種の設定を行なうことで、結果的に家族や関係者のストレス低減につなげることができるのである。

テレカームの電話サービスは、電話機の無料レンタル、市内・市外通話の無制限利用に加えて、迷惑防止サービスがパッケージされて月額54.99ドル(税込)で提供されている。(一度だけ60ドルのアクティベーション料金がかかる。)テレカームのサービスは現在、米国の個人住宅や100以上の高齢者施設で活用されている。

日本では、携帯電話の迷惑防止機能アプリなどはあるが、本人が家族や他者に迷惑電話をかけた場合、それを防止するサービスは存在しない。防止機能が結果として本人の生存を脅かすようなものにならないことは言うまでもないが、認知機能低下を抱えた人と、適度な距離感を図るべきということについては、ある種の示唆を与えてくれるサービスと言える。

孤独問題を解決するコミュニケーションロボット

■エリQ(ElliQ)

・社名: インステューション・ロボテックス社(Instuion Robotics)・創業:2016年・本社:イスラエル・テルアビブ・CEO:ドル・スクーラー(Dor Skuler)

・URL: https://www.intuitionrobotics.com/

高齢者向けのロボットのタイプはさまざまであるが、大きくは、①自らの生活運動機能をサポートしてくれるタイプ(移乗支援、排泄支援など)②見守りタイプ③コミュニケーション相手としてのロボット、の3タイプに分類できる。

インステューション・ロボテックス社(Instuion Robotics)が開発したエリック(Elli Q)は、コミュニケーション・タイプに属するもので、ロボットとの会話を通じて、孤独や社会的孤立といった高齢社会特有の課題を解決しようとするものだ。

エリックの形状は極めてユニークである。本体、スピーカー、モニターが卓上部分と一体で構成されている。曲面のフォルムで自在に頭の部分が動き回る本体は、顔はないが、その代わりに動きやLED、音声で表現し、親しみやすさやユーモアを高齢者に伝えようとしている。このデザインは、スイスのデザイナー、イブ・べアールによるもので、人間中心設計の思想『誰のためのデザイン』で著名なドナルド・ノーマンがアドバイザーとして関わっている。

エリックは親みやすく、知的で、好奇心旺盛なコミュニケーション・ロボットとして設定されている。高齢者がその日常の多くを過ごす場所に設置されると、エリックは高齢者と積極的にコミュニケーションを図ろうとする。

「エリック、何か面白い話をして」と語りかけると、彼女はちょっとした日常の面白いエピソードを披露する。それがきっかけとなり、高齢者とエリックの会話が生まれるというわけだ。その他にも、届いたメールの伝達や、ニュースの読み上げ、音楽の再生など、さまざまな要求にエリックは応えることができる。

加えてマインドフルネス活動、認知ゲーム、栄養に関する会話、水分補給のリマインダーなど、さまざまな高齢者に役立つ情報をエリックは利用者に提供する。

ただし、それだけでは、現在数多くあるAIスピーカーの保有する機能とさほど変わらないことになる。エリックならではの特徴はやはり、ユニークな形状をした本体にあり、動きや光によるジェスチャーを通じ、高齢者と仲間(コンパニオン)になろうとするところにある。さまざまな会話を通じ、一人暮らしの高齢者に会話の喜びを提供し、その結果、孤独を解消する。それを実現することが、エリックが求められる最終のゴールと言えるだろう。

エリックの開発に携わるのは、イスラエルに本社をおくインテューション・ロボティックス社。2024年現在、エリックは商品化され、月額29.99ドルのサブスクリプションモデルで提供されている。

スマートスピーカーを活用した見守りサービス

■Amazon Alexa Care Hub(ケアハブ)

・社名: アマゾン(Amazon)・創業:1994年・本社:ベルビュー・ワシントン州・CEO:ジェフ・ベソス(Jeff Bezos)

・URL: https://www.amazon.com/Alexa-Together/b?ie=UTF8&node=21390531011

アマゾンが、2020年11月にスタートした新サービスが「ケアハブ(Care Hub)」である。

これは、介護が必要とされる人と介護者を音声アシスタント「アレクサ(Alexa)」を介して繋ぐサービスだ。ケアハブを利用するには、「Echoシリーズ」のスマートスピーカーか、アレクサ対応デバイスと、ふたりを繋ぐためのアレクサ・アカウントが必要となる

ケアハブの機能はいくつかある。ひとつは、見守り機能である。

これは、見守られたい側と見守る側を1to1で繋ぐもので、見守られたい側が自分のアカウントから、相手に招待状を送り、それが承認されると、見守る側は見守られたい側のアレクサ利用状況、(例えば、曲を聴いた)をモニターできるようになる。但し、細かなプライバシー情報を伝えるのではなく、カテゴリー別(例えば、音楽を聴いたなど)としてメッセージが送られるのである。相手が何をしているかではなく、どうしているかを確認することができる。アラート設定をしておけば、最初に何かアクションを起こした時や、一方で、一定の時間にアクティビティがなかった場合にメッセージを通知することができるのである。

見守られたい側が自分の行動履歴を相手に知らせたくない場合には、即座に履歴を削除することも可能だ。"アレクサ、今言ったことを削除して"、"アレクサ、今日言ったことを全部削除して "と言えば、簡単に音声を削除することができる。

そしてもうひとつがヘルプ機能である。何か生活上、問題が起きた時に、"アレクサ、助けて(Alexa, call for help.)"と助けを求めれば、アレクサが電話をかけ、介護者のスマートフォンに通知を送ってくれる。そして、ケアハブを通じて、要介護者に呼びかけたり、話したり、緊急連絡先に通知することが出来る。

これ以外にも、アレクサは、例えばリマインダー機能を使えば、薬を飲む時間を思い出させてくれるなどさまざまなシニアの困りごとを助けてくれる可能性がある。

コンセントセンサーで高齢者を見守る

■ケア・アラート(CareAlert)

・社名:センサーコール(SensorsCall Inc.)・創業:2016年・場所:アトランタ・ジョージア州・ファウンダー&CEO: フェレイドゥン・タスリミ(Fereydoun Taslimi)

URL: https://www.sensorscall.com/

年老いた両親の様子が心配だ。きちんと食事はとっているだろうか、エアコンの温度設定は大丈夫か、部屋の中で転んだりしてないだろうか。こうした心配は、子供にとっては尽きることがない。そうした子供の不安ニーズを汲み取る形で、国内外でさまざまな見守り機器が開発されている。その中でいくつかユニークな機器を紹介してみたい。

センサーコール社(SensorsCall Inc.)が開発した「ケア・アラート(CareAlert)」は、ナイトライトのようなデザインで、自宅のコンセントに差し込むだけで見守りが可能となる簡単デバイスだ。

自宅のそれぞれの部屋のコンセントにケア・アラートを設置すると、内臓された複数のセンサーが連動し、自宅内の空気の質、音、光、振動、温度などを検知する。収集されたデータは、独自の機械学習アルゴリズムにより、寝起きや料理などの行動を推測し、通常の日常のベースラインの学習データを構築する。それを習得したデバイスは、その後の日常環境をモニターする中で、何か異常があればモバイルアプリを介し、子供などのエンドユーザーに伝えるのである。

ここでベースラインとなる学習データは、この機器を開発するプロセスで、先行的に得られた何百万件にもわたる学習データに基づくものである。

また、センサーコールは、携帯電話のアプリを使い、両親とコミュニケーションをとることもできる。例えば、携帯電話や固定電話で両親と連絡が取れない場合、モバイルアプリを使って会話できる。またこのアプリは、薬の服用などのリマインダーを録音し、予定した時間に自動的にデバイスに内蔵されたスピーカーから直接伝えることもできる。また、アプリのウェルビーイング・ダッシュボード通じて家庭内環境を知ることもできる。

ケア・アラートは2020年から販売開始され、1台149ドル、3台パックで429ドルの価格で販売されている。(2021年7月現在)また同製品は、CESの「2020年イノベーションアワード」のヘルス&ウェルネス部門の受賞者にも選ばれている。

在宅医療・在宅介護

オンライン処方箋のイノベーション

■ピルパック(PillPack)

・社名:ピルパック(PillPack)・創業:2013年・本社:ケンブリッジ・マサチューセッツ州・CEO:T Jパーカー(T J Parker)

・URL:https://www.pillpack.com/

米国でも薬剤提供の仕組みは日本と同様で、かかりつけ医に処方箋を出してもらった後、調剤薬局に出かけて薬を出してもらう。高齢となると、複数の医者から薬剤を処方してもらうケースも増え、そうした際に問題となるのは、それら薬の飲み合わせ、飲み忘れ、飲み間違い、飲み残しといった服用上の問題の発生である。服用する薬剤種類数が多いほど、薬物有害作用の発現頻度は高くなる。また、日本薬剤師会の調査結果によれば、同じく服用薬剤種類が多いほど、飲み残しの割合も高くなるそうだ。

 日本でも、お薬手帳で服薬管理するなどの動きがあるものの、自宅での服用管理では、自分でピルケースに小分けするなどの手間が必要とされる。

ピルパック(PillPack)は、そうした煩雑な処方箋、服薬管理をオンラインにより一元管理したサービスとして提供しようとするものだ。

オンライン上で、医師からの処方箋、保険情報、支払い情報などを入力すればサービス利用が可能となる。対象となるのは、複数の薬を長期間服用する慢性疾患のある人だ。当初、ターゲットとしたのは、1日に5種類以上の処方薬を服用している3千万人の米国の成人の支援である。

処方された薬は、服薬時間帯別にロール状に小分けされた形で一ヶ月分が送られてくる。ビタミンなどの健康食品も加えることが可能だ。これに、小分けが出来ない液体薬や吸入器などと一緒に箱にパッケージされ、それぞれの錠剤の写真と服用方法の注意書きが書かれたラベルが添えられる。処方箋パッケージデザインには、世界的デザイン会社であるIDEOによるデザイン監修が行われており、高齢者でもわかりやすい飲み間違いが起きないデザイン設計となっている。

各顧客の薬の管理、リフィル(補充)の調整、配送管理などを行っているのは、自社で独自に開発したソフトウェア・プラットフォームPharmacyOSである。顧客は、この プラットフォームOSを通じて、自己の注文状況を確認することができると同時に、ピルパックの薬剤師にメールやテキスト、電話で質問、指示の確認などができる。このサービスの利用料は、送料も含めて全て無料である(薬の自己負担分金額は除く)。

同社の共同創業者であり最高経営責任者であるT Jパーカー(T J Parker)は、薬剤師の2代目であった。親の仕事を通じて、何百何千にもわたる薬の管理と運用が極めて煩雑で、その多くが薬剤師のマンパワーのみに頼るもので、それゆえヒューマン・エラーが起こる可能性も否定できないことを感じ取っていた。薬学部を卒業したパーカーは M I Tのハッキング・メディスン(HackingMedicine)を通じて知り合った共同創業者エリオット・コーエン(Elliot Cohen・最高製品責任者、共同創業者)とともに、薬剤提供の仕組みにイノベーションを起こそうとした。

同社はボストンを拠点に2013年にサービス開始。2014年までに31州でライセンスを取得し、急成長を果たした。

2018年6月、アマゾンはピルパックを7億5300万ドルで買収、現在同ブランドは、ピルパック・バイ・アマゾンファーマシー(PillPack by Amazon Pharmacy)として展開、プライム会員であれば2日以内の無料配送サービスが受けられるようになっている。

このように処方薬分野において、イノベーションを起こしたピルパックであるが、日本ではまだオンライン処方の許諾認可が下りていない。新型コロナの影響で、医療機関への受診が困難であった2020年4月以降、時限的特例措置として、電話やオンラインによる服薬指導と薬の配送が可能となっているが、これが継続的な措置となるかどうかはまだ不明瞭な状況である。

AIセンサーにより統合された遠隔モニタリングを可能とする

■ゼンプリー Zemplee

・社名:Zemplee Inc・創業:2015年・場所: ロスガトス・カリフォルニア州・Founder&CEO: アパルナ・プジャール(Aparna Pujar)

URL: https://zemplee.com/

介護施設は、労働集約的施設が多く、システム化やデジタルの導入による効率改善が進みづらい業界であると言える。それは元々の福祉概念に、人の手による奉仕がケアの本質であるというマインドが宿っているからかもしれない。もちろん、それは決して悪いことではない。しかし昨今の介護人材の慢性不足という状況の下で精神論のみに訴えることは、介護者の“やりがい搾取”にもなりかねない。IoTやデータの活用により、ケアの質が向上し、人的負担が削減されるのであれば、積極的にデータ活用がなされるべきであろう。

2015年にカリフォルニアで創業したゼンプリー(Zemplee)は、主に介護施設を対象に、入居者に関連するさまざまなデータを取得し、24時間体制で入居者の健康状態を追跡するシステムを提供しているスタートアップである。

入居者の状態をセンサーで監視するシステムは、動きを確認する生体センサーや、ベッドの寝起きを確認する離床センサー、外出を検知するドアセンサーなどであり、これはすでに導入している介護施設も多い。しかし、これらはそれぞれ単体で機能するものが多く、個別のアラートを別々に読み解くのは、非常に手間もかかり困難である。

ゼンプリーは、これら全てを統合したシステムである。それぞれのデータはクラウドに上げられ、AIを活用した統合ソフトウェアによって管理される。ゼンプリーのセンサーは、動きや行動を捉えるための室内に設置されるルームセンサーと呼吸数や心拍数、睡眠パターンを取得するために椅子やベッドに設置されるスマートインサートのコアキットで構成される。場合に応じて基本システムの外部のバイタルセンサーや音声デバイス、カメラデバイスなどとAPI連携することも可能である。これら取得されたデータはAIによって機械学習され、最初の1ヶ月でその人の行動のベースラインが作成される。その後システムは、照明、食事、トイレの使用など、日々の行動を解釈しながら、健康と安全に関わる要素を監視し続ける。もし、行動に気になる点が生じた場合には、ゼンプリーは、家族や介護者、医師など、あらかじめ設定された知らせるべき人にアラートを発する。

またセンサーによって取得されたデータは、ダッシュボードを通じて、家族をはじめとする関係者がリアルタイムに確認することができる。

2020年に全世界を突如襲ったCovid-19は、多くの高齢者施設で本人と家族の間のコミュニケーションを分断したが、このシステムは少なくとも本人がどのような状態にあるのかを理解する助けになるだろう。

ゼンプリーのAIを活用した遠隔モニタリング・システムは、2019年11月にベータ商品を発表、2020年1月にはBocaキャピタルのプレシード資金を得て規模を拡大。同年2月にはサンフランシスコのアシステッド・リビングの100ベッドに導入を果たし、5月には200ベッドでの基本合意を果たしている。また2020年8月には、AARPとエンドウェル社が主催したピッチコンテストでファイナリストに選ばれている。

同社の創業者であり、共同経営者であるパルナ・プジャールは、Omnicell 社の e-Commerce ディレクター、Yahoo! のメディア・フロントドア部門のディレクター、eBayでビッグデータとAIの戦略的イニシアチブを担当した後、Zempleeを共同経営者であるゲイリー・ファウラーとともに設立した。彼女は、2021年アナリティクス・インサイト誌の「テクノロジー分野でインパクトのある女性トップ10」にもノミネートされている。

A Iを活用したヴァーチャル介護人

■アディゾン・ケア(Addison Care)

・社名:エレクトリニック・ケアギバー社(Electronic Caregiver, Inc. )・創業:2009年・本社:ラスクルーセス・ニューメキシコ州・CEO:ANTHONY DOHRMANN, CEO

・URL:https://addison.care/

高齢化に伴い、否応なく増加が予想されるのが介護を必要とする人々だ。なかでも専従の介護スタッフが常駐する介護施設ではなく、在宅での介護のあり方を考えることが重要である。在宅介護の場合、同居する家族や訪問介護、看護、医療のスタッフがそれぞれの役割を果たしながら介護者を見ていくことになるが、慢性的な介護スタッフ不足が懸念される中で、いかに効率的なケアのあり方を考えていくとことが極めて重要になっていく。ロボットも含めた各種テクノロジーの活用により、それが要介護者のQOLの向上に繋がりかつ効率化も実現するかどうかが問われている。A Iを活用したヴァーチャル介護人であるアディゾンが担うのは、そうした領域の一部である。

最初にアディソンのことを説明しなくてはならない。アディソンは15インチ・タブレットモニターに存在する24時間対応が可能な3Dアニメーションのヴァーチャル介護人である。彼女は常時タブレットの中なかで微笑み、介護者を常時見守り、生活介護の一部を担うのである。但し、介護といっても、食事の補助や排泄介助ができるわけではない。アディソンが担うのは、慢性疾患高齢者の服薬管理、健康状態のモニタリングなど、どちらかと言えば看護師の担う領域である。

アディソンのコンセプトは、家庭内に設置されたコネクテッドデバイス(タブレット)を介してアクセスできる対話型の音声プラットフォームで、従来は現場で人が行っていた健康モニタリングや治療サポートを行い、必要に応じて助けを求めおうとするものである。この提供サービスをより親しみやすくするために、アマゾンのAWSを活用し、音声操作インターフェイスに拡張現実(AR)のアニメーションキャラクターであるアディソンが採用されたのである。

アディソンを開発したエレクトロニック・ゲアギバー社は、2009年の設立以来、さまざまな介護に関わるコネクテッド・デバイスを開発してきた。例えば、エレクトロニック・ケアギバー・プレミア(Electronic Caregiver Premier)は、G P S付時計型の緊急対応とスマートヘルスデバイスで自宅内外に関わらず、緊急時に対応が可能なデバイスだ。また同社のコネクテッド・デバイスは、血糖値、血圧、酸素濃度、肺活量、体温、体重などの各計測装置とブルートゥースで繋がり、オンラインでバイタルモニターを管理することができるものだ。アディソンは、こうした同社の製品を在宅看護の際によりフレンドリーに使えることを目的として開発されたもので、主な対象は糖尿病、呼吸器疾患、心臓疾患などの慢性疾患を抱え、常にモニタリングが必要とされる患者の人々である。

A Iを備えたアディソンは、こうした健康モニタリング、服薬リマインド、緊急対応以外にも、音声による日常会話や、記憶力エクササイズ、体力維持のための簡単なフットネスなども行う。3Dによるアニメーションキャラクターであることが、このデバイスに人間味を与えてくれているのである。