第5回 デジタル・リハビリテーション

「エイジテック革命」連載第5回のテーマは、デジタル・リハビリテーションである。リハビリテーション分野においてデジタルテクノロジーの活用は今後大いに期待できる領域だ。ロボット活用によるリハビリVR活用によるゲーミフィケーション効果は、人的労力削減に加え、リハビリ改善の状態を具体的な定量データとして把握することで効果が具体的に掌握でき、次のリハビリプランの方向性を定めることが容易になる。こうしたデータ把握は、理学療法士や介護療法士の労力の軽減にもつながることが期待できる。

3次予防分野のリハビリロボット

■セルフィット・メディカル(Selfit Medical LTD)

・社名:セルフィット・メディカル(Selfit Medical LTD)・創業:2017年・本社:イスラエル・CEO:シャハール・フィゲルマン(Shahar Figelman)

セルフィット・メディカル社(Selfit Medical LTD)は、イスラエルを拠点とするデジタルロボットケアの2017年設立の新興企業である。ロボット技術を用い脳卒中患者や心臓病患者、パーキンソン病や運動障害、認知機能障害を抱えた高齢者の人々に対しリハビリ治療を提供するものだ。

一般にリハビリでは、日常活動の回復や介助軽減を目的に、理学療法士や作業療法士などの指導のもとに運動療法などが行われるが、セルフィットは、それらの療法機能をロボットが担おうとするものである。

セルフィットの形状は高さ1メートル弱の円筒形である。機器には、モニター、深度カメラ、ARプロジェクション ボイスインターフェースなどが備え付けられている

セラピーでは個々の患者のコンディションに対応する運動プログラム・マップがA Rプロジェクションで床に投影される。患者は床に投影されたマップおよび音声によるアドバイスに従いながら運動プログラムを行う。セルフィットはそれら動きを時間、距離、速度、正確性レベル、可動域などの各種データとして収集。それらデータは分析モジュールに転送される。機械学習により蓄積されたデータをもとに患者の評価とモニタリングが行われ、テーラーメイドの治療プログラムが作成されることになる。こうしたセルフィットの治療運動プログラムは、症状や改善レベルに応じ50ほどのプログラムが開発されている。

このセルフィットを導入することで、理学療法士や運動療法士の対応人数は大幅に増加し、効率的なリハビリサービスの提供が可能になるはずだ。また

セルフィット・メディカル社は、施設での提供のみならず、最終的には在宅でのプログラム提供を目指している。

聞こえ方のトラブルを改善する聴覚リハビリ

■オーディオカーディオ(AUDIOCADIO

・社名:オーディオ・カーディオ(Audio Cadio Inc.)・創業:2018年・本社:サンタモニカ・カリフォルニア州・CEO:クリス・E.(Chris E.)・URL: https://audiocardio.com/

オーディオ・カーディオは、難聴や耳鳴りなどの聞こえの問題を改善するサウンドセラピーを提供するアプリだ。聴力に何らかの困難を抱えた人は、一日一回、1時間ほど、このオーディオ・カーディオを利用し続けることで、およそ日程度で有為な改善が得られることが臨床研究の結果判明している。

利用の仕方は簡単である。利用者は、アプリをスマホやタブレットにダウンロード。ヘッドホンや補聴器を接続し、出来るだけ静かな部屋で、アプリから流れてくる音を聴きながら、画面上の音量スライダーを「ほとんど聞こえないレベル」まで調整していく。これで初期設定は終了である。その後は、毎日オーディオ・カーディオを使い続けることで、聞こえのコンディションは少しずつ改善していくのである。

この技術は同社が開発したスレッショルド・サウンド・コンディショニング(TSC)という非侵襲的な音響技術に基づくもので、TSCでは、サウンドセラピーの音量を、個人の聴覚の対象となる周波数帯(周波数の範囲)の「ちょうど聞き取れないレベル」(聞き取れる範囲のすぐ下)に合わせる。そこは、すなわち、騒音や加齢によって感度が低下した周波数ということになる。

そして、可聴レベルのすぐ下の周波数で耳の中の細胞に対し音信号を繰り返し送り、刺激を加えることで、音が脳の一部に到達し、音として処理・認識されるために必要な神経経路を回復させようとするのである。言ってみれば、これは聴力の物理的リハビリ療法である。

この技術は、複数の著名な研究機関で臨床的に検証され有効性が証明されている。TSCによる聴覚改善の可能性についての研究結果は、2020年5月に国際学術誌「Laryngoscope Investigative Otolaryngology」などにも掲載されている。

このサウンドセラピーは、ながらセラピーも可能で、スポティファイやアップル・ミュージックなどの音楽ストリーミングサービスを聴きながら、同時にアプリを使用し、セラピーを受けることも可能である。

オーディオ・カーディオの使用料金は、月単位だと12.99ドル、年単位では99.99ドルと安価に設定されている。

●VR/AR技術を活用したリハビリセラピー

V R(バーチャルリアリティ)技術の活用

V Rは「Virtual Reality(バーチャルリアリティ)」の略である。ディスプレイ内蔵型ゴーグル型端末(HMD ヘッドマウントディスプレー)を装着すると、頭の動きに合わせて目の前の映像が動き、まるで映像の世界に入ったような没入感を味わうことができるというものだ。2016年にオキュラス、ソニー・インタラクティブ・エンタテイメント(SIE)、安達国際電子(HTC)などが比較的安価なVRを発売して普及に弾みが付いた。

V Rの活用領域は今のところゲーム分野が主流であるが、これ以外にもさまざまな可能性が考えられる。仮想現実という名の通り、VRの持つ最大の特徴は、目の前にある現実とは違う現実が体験できることにある。建築シミュレーション、運転トレーニング、災害対策支援などの分野では効果を発揮するだろうし、V Rを活用した手術や治療などの医療訓練、リハビリ分野における仮想体験活用など、医療・ヘルスケア分野でもさまざまな活用が考えられる。高齢者分野でのVR活用では、日本国内では認知症体験などに一定の成果はあるものの極めて限定的だ。それに対し米国においては、セラピーやリハビリといった医療関連行為にVRを活用するケースも生まれている。

VR/ARを活用したテレヘルスプラットフォーム

■XRヘルス (XR Health)

・社名:XRヘルス(XR Health)・創業:2016年・本社:イスラエル・ファウンダー&CEO:(Eran Orr)・URL: https://www.xr.health/

XR Healthはイスラエル発のバーチャルリアリティ(VR)による理学療法や認知療法を提供するSaaS(Software-as-a-Service)型ヘルスカンパニーである。

主な治療領域は、身体の動きや可動域の改善を目的とする理学療法やリバビリテーション分野、認知機能のエクササイズや認知能力の測定分野、リラクゼーションや痛みの感覚を抑えるためのトレーニング分野で、これらの理学療法アプリケーションは、FDA認証を得たもので、ライセンスを持つセラピストによるコンサルテーションを経て推奨プログラムが提供される。

セラピストと患者は、VRヘッドセットでのビデオ通話で治療方針を決定し、それぞれの症状に対応した12種類以上の理学療法や認知療法がVRヘッドセットのオキュラスを使った治療プログラムとして提供される。

XRヘルスのヴァーチャル・アプリは、いずれもゲーミフィケーション要素が盛り込まれている。

例えば、運動認知運動向上や上肢リハビリテーションのエクササイズとして「カラーマッチ(Color Match)」がある。これは、仮想空間上に現れたボクシング・グラブで、色の合うパネルを9つの中から選んでパンチするエクササイズだ。患者の反応速度に応じて、スピードを変えたり、色を追加することで、難易度の高いリハビリにすることも可能だ。それ以外にも、肩の可動域を改善する「バルーン・ブラスト」、身体および認知機能能力の向上に役立つ「リアクト」などがある。

プログラムの実施を通じて得られたデータを通じて臨床医は、患者が正しくエクササイズを行っているかどうかをリアルタイムで確認することもでき、患者の動きや呼吸パターンデータなどでリハビリの進捗を確認することができる。

これらのアプリは、すでに全米30以上の病院や医療センターで使用されており、また自宅での利用も可能である。顧客は、月5ドルの20セッション、月10ドルの50セッション、月19ドルの無制限セッションの3つのプランから選ぶことができる。XRヘルスは累計1,500万ドル(約16億円)の資金調達を果たしており(2021年現在)、同社はこの資金をべースに今後、全米各地にバーチャルクリニックを拡大する計画だ。同社のこのテレヘルスプログラムは、多くの主要保険会社やメディケア(公的医療保険制度)でカバーされる治療サービスとなっている。

ゲーミフィケーションを活用したVRリハビリ

■ニューロ・リハビリVR (NEURO REHAB VR)

・社名:ニューロ・リハブVR(NEURO REHAB VR)・創業:2017年・本社:フォートワース・テキサス州・CEO:ヴィーナ・ソマレディ(Veena Somareddy)・URL:https://www.neurorehabvr.com/

ニューロ・リハビリV R は、長年にわたるVR/ARの研究開発の経験を持つヴィーナ・サマディ(Veena Somareddy)と不動産開発業者のブルース・コンティ(Bruce Conti)が共同設立したものだ。

同社は、より医療現場に近い高齢者、すなわち脳卒中や脳損傷、脊髄損傷後に理学療法を受けている高齢者などを対象にしたVR体験であるが、この中にもゲーミング要素は盛り込まれている。

基本的にリハビリはあまり楽しくはなく、単調で辛い事の多い作業だ。失われた筋力や回復し、運動行為につながる神経回路を復活させるために、何度も同じ場所に負荷をかけ、神経を刺激する必要がある。当然痛みが生じる場合も多い。そんな時、作業がV Rによって本人にとってよりモチベーションの高い行為に変換されれば、楽しみながらリハビリを受けることが可能になる。

このニューロ・リハビリV Rゲームは「脳の神経可塑性」を背景としている。それは、脳は脳細胞に損傷を受けた後でも、学習や物理的な治療に応じて機能的・物理的に脳機能を回復する能力を持っているものの、それは単なる機械的作業ではなく、意味があると感じられる目標の方が回復は早いというものである。

例えば「ファール・プレイ(Fowl Play)」というセラピーは、患者に向かって発射された大砲の砲弾を、スクワットや立ったり座ったりしながら避けるというものだが、単純で退屈な運動療法をゲーム化することで、集中力やマインドフルネスが高まる効果が得られる。また「小売セラピー(Retail Therapy)」は、患者は食料品店の通路におり、少し離れた場所にある棚の商品に手を伸ばすことが求められる。つまり退院後の日常生活においても有益となる作業を目標としたリハビリ行為となるのである。

バーチャル・セラピー・エクササイズは、各々の患者の状態に応じてカスタマイズされた形で提供され、生理学的および運動学的な反応を記録するため、患者の進歩を時間の経過とともにスコアや指標として定量化される。

2019年3月にVRエクササイズは発売され、テキサス州フォートワース、イリノイ州ウィロースプリングス、カリフォルニア州パームデールにある3つの外来理学療法クリニックで使用されている。また同社は現在、患者が自宅でVRセラピーを続けられるよう、ホームヘルス用のモバイルVRソリューションを開発中である。

オールインワン・プラットフォームで遠隔リハビリを提供

◾️ワイズケア WISE CARE

・社名: WizeCare.Ltd・創業:2011年・場所:テルアビブ・イスラエル・CEO & Co-founder: ロイ・シュテレン(ROY SHTEREN)・URL: https://wizecare.com/

イスラエルで創業し、現在米国市場で展開するワイズケアが提供するのは、在宅における遠隔操作リハビリテーション・ソリューションである。リハビリテーションの対象となるのは、整形外科疾患、神経疾患、慢性疾患、高齢者など。ワイズケアのプラットフォームは、あらゆるモバイルデバイス、デスクトップデバイスで動作する。モバイルアプリを通じ、患者はワイズ・ケアによる理学療法在宅ケアや、オンラインによる医師や理学療法士との外来サービスなどを受けることが可能なオールインワン・プラットフォームを手にすることができる。

ワイズケアのリハビリテーション・プログラムは、次のような手順で実施される。

まず、最初に行うのは治療方針の決定である。アプリ・コンテンツ“ワイズケア・ホーム”を通じ、臨床医と患者はコミュニケーションを取り、患者に提供されるリハビリ・プログラムが定められる。次いで、“ワイズケア・パフォーマンス”で提供されるのが、オンラインでのインタラクティブなケアプランである。スマートフォンやビデオモニターを通じて、まずはトレーナーの模範の動きが示される。患者はその動きを眺めながら、指示に従って同じように手を動かし、屈伸する。そして、患者の動きはモバイルカメラでモニターされ、同社のMoveAIテクノロジーで、そのパフォーマンスが即座に分析・解析される。AIにより患者の骨格の動きはモーショントラッキングされ、スコアリングされ、リアルタイムでフィードバック改善ガイドが提供される。実施されたリハビリ・セッションの情報は、終了後、臨床医に対して提供される。そして必要に応じて医師はオンラインで患者とオンラインで再びコミュニケーションをとるのである。

こうしたAIテクノロジーを活用したリモート・プログラムにより、リハビリテーションは、わざわざ理学療法士とのリハビリを予約し、トレーニングセンターに出かけなくとも、自宅で手軽に受けることができるものに変わった。

同社の提供するプログラムは、従来のリハビリよりも効果的であるという臨床結果も出ているという。テルアビブ大学ロイトメディカルセンターによる臨床試験では、股関節手術後のリハビリを従来の在宅運動プログラムを受けている対照群と比較した結果、優位な改善効果が現れていると報告されている。

同社のサービスは、医療機関や保険会社を通じ患者に提供されるBtoBtoCのビジネスモデルとなっており、医療機関の要望に応じ、同社は患者に対し90日の術後リハビリ・プログラムを無償で提供。一人当たり500ドルのフィーを受け取るという仕組みである。この一人当たりの金額は、一般的な人手を介するリハビリ費用よりも安価になっており、結果的に低コストで良い効果の高いサービスが提供されることになる。

ワイズケア社は、2012年の創業当初はリアルなの理学療法クリニックとしてスタートしたものの激しい競争にさらされる中で、新たなフィールドでの成長を目指しデジタルへルスのスタートアップへ変貌を遂げた、

ワイズケアは、自らのミッションとして、「医療機関がインテリジェントでアクセスしやすく、エキサイティングなフィジカル・セラピー・セッションを患者の自宅に直接届けることを可能にし、医療機関や保険会社が測定可能で手頃な価格の標準化されたクオリティ・オブ・ケアを提供できるようにする」ことを掲げている。

高齢者施設にV R体験を提供する

◾️レンデバー (Rendever

・社名:Rendever・創業:2016年・所在地:Massachusetts Somerville・CEO:Kyle Rand(カイル・ランド)・URL: https://www.rendever.com/

ヴァーチャルリアリティ技術は、障害を持つ人々のリハビリテーションのみならず、アルツハイマー認知症や社会的孤立に悩む高齢者の気持ちを穏やかにするツールとしても活用されている。

利用者は、レンデバー社の保有する豊富なビデオライブラリーからプログラムを選ぶことができる。今までに訪れたことのない南極大陸やアフリカ大陸などを訪れることも可能だ。自分の故郷や過去に訪れたことのある懐かしい場所、新婚旅行で訪れた場所などを追体験することができる。いわば、個人の体験に基づくカスタマイズされた回想療法ツールと言える。それぞれの思い出の場所はGoogleストリートビューを活用される。過去の懐かしい記憶が呼び覚まされることで、その思い出を語ろうとする意欲が湧き、人との会話を楽しむゆとりが生まれる。ヴァーチャルリアリティは同時に複数人視聴が可能なので、皆で同じ映像を眺めつつ、お互いの会話を弾ませることができる。

またストックされた映像だけでなく、オリジナルの写真や動画で体験をアップロードできるようになっている。例えば、孫の結婚式におばあさんが出られない時に、家族テーブルの上に360度カメラをセットし録画ボタンを押し、ファイルをレンデバーのプラットフォームにアップロードすれば、それをプログラマーがゴーグルに読み込ませ、おばあさんも孫の結婚式体験に浸ることができるのである。

同社のC E Oであるカイル・ランドは、高齢者施設でボランティア活動をしながら育ち、その後、高齢者の認知機能低下について研究した後、いくつかの会社経験を経て同社を起業した。

同社のヴァーチャルリアリティ技術は、米国立衛生研究所(NIH)および米国立老化研究所(NIA)から研究資金を援助され、全米退職者協会(AARP)やVerizonなどの大規模組織と商業的提携を結んでいる。現在この技術は、米国、カナダ、オーストラリアの300以上の高齢者施設で利用され、数万人の入居者に100万回近いVR体験を提供してきている。

クライアントには、ReveraやBenchmarkなどの大手シニアリビング運営会社や、UCHealthやCleveland Clinicなどのヘルスケアのパイオニアが含まれている。レンデバーのヴァーチャルリアリティは、デバイスの貸し出しを含めたサブスクリプション制をとっている。

感情をモニタリングするA Iモニター

◾️ソロ (Solo) 

・社名:Solo Wellbeing Ltd.・創業:2018年・本社:Israel Zikhron Yaakov・Founder & CEO:Roy M. Tal・URL: https://www.imsolo.ai/

2018年にイスラエルで創業したSolo Wellbeing Ltd.は、A Iを活用し、感情を客観的に把握する表情解析テクノロジーを開発している企業である。Soloの感情解析システムは極めてシンプルである。ビデオカメラを通じて顔の表情をモニタリングするだけである。A Iは、顔の表情変化をリアルタイムでモニタリングし、1分間で4200の感情データを収集・解析し、感情スコアを算出する。算出基準は、「穏やか」「幸せ」「怒り」「ムカつく」「悲しい」「怖い」「驚き」の7つで、これらが顔の表情の変化に応じてデータスコア化されるという仕組みである。この仕組みを用いることによって、対象者の気持ちがどのような状態にあるのか、もしくは変化しているのかを定量的に分析することが可能となり、この状態変化を踏まえた上で、新たに対象者に対して提供すべきサービス内容を決定することが可能となる。現在同社では、この感情分析の技術を用いて、イスラエルをはじめ、米国や日本、ウクライナにおいて、さまざまな分野での事業展開検証が行われ始めている。

事業展開を検討している領域のひとつが高齢者分野である。例えば認知症高齢者のケアでは、発話や明確な意思表示が困難であることもある認知症高齢者の微細な顔表情を解析し、彼ら彼女らが幸せを感じる動画コンテンツを提供するというデジタルセラピーの実証実験が行われている。この実証実験は、日本の医療法人参天会が運営する鹿児島の複数施設において、デジタルセラピーと睡眠との関連性の検証を目的として2021年10月に開始されている。

また、これ以外にも対象者の気分をよりよくするためのミュージックセラピーや環境映像の提供を感情解析との連携で行うといったトライアルも行われている。

Solo Wellbeing Ltd.の創業者Roy M. Talは、ロンドンで音楽スクールを卒業したのち、シンギュラリティ大学のエクゼクティブ・プログラムを学びつつ、イスラエルMassChallenge IsraelコホートとThe Hiveを卒業、Soloを起業した。イスラエルのデジタルイノベーションのバックアップにより創業を果たしている。

V Rを活用した高齢者体験プログラム

■エンボディード・ラボ (Embodied Labs)

・社名:エンボディード・ラボ(Embodied Labs)・創業:2016年・本社:ロサンゼルス・カリフォルニア州・ファウンダー&CEO:キャリー・ショウ(Carrie Shaw)

・URL:https://embodiedlabs.com/

エンボディード・ラボ(Embodied Labs)が提供するのは、施設ケアラー(介護士、ヘルパー)を対象にした「高齢者体験」である。高齢となり病気や障害を抱えた状態は、実際にどんな生活困難を抱えるのか。介護士、ヘルパーたちは、このV R体験を通じて学べるのである。

同社が提供する高齢者体験V Rでは、アルフレッド、ベアトリス、クレイという3名の困難を抱えた高齢者の視点から見た世界である。

アルフレッドは、体験者は、黄斑変性症と高域難聴を持つ74歳のアフリカ系アメリカ人男性である。彼が、家族と過ごし、医者を訪れ、診断を受ける様子を経験することができる。彼が日常生活を送る上で、聴覚や視覚障害がコミュニケーションにどのような影響を与え、心の健康にどのような影響を与えるかを、V Rを通じて理解することができる。

ベアトリスは進行性のアルツハイマー病を持つ中年のラテン系女性。症状の発症期から、後期高齢者となり、施設に移るまでの間、アルツハイマー病が、処理能力や認知能力、人間関係や感情面などの日常生活に与える影響を理解することができる。

クレイは、ステージIVの末期肺がんを患う66歳の退役軍人である。彼は、ホスピスケアに入り、人生の最終段階に入る。体験者はクレアの終末期の決断や最後の日に何を期待するかを知ることで、家族や医療チームのメンバーとのコミュニケーションを練習し、難しい診断を受けた後の会話を敏感に操る方法を学ぶことができる。

現在、同社の提供するプログラムは法人のみに提供されており、高齢者ケア、在宅医療、在宅介護サービスなどの100以上の企業団体に提供されている。

加入者は、2,500ドルからのハードウェアのセットアップ費用と、拠点数や従業員数、ユーザー数に応じたトレーニングプラットフォームの年間利用料を支払うことになる。

同社は現在、150万ドルの投資資金を調達しており、Bill and Melinda Gates Foundation、AARP、Department of Educationなどから40万ドルの非流動的な資金提供も受けている。また、The Ziegler Link-Age Fundの支援も受けている。

音楽療法を手軽に提供するアプリ

◾️シングフィット(SingFit)

・社名:ミュージカル・ヘルス・テクノロジー(Musical Health Technologies)・創業:2012年・場所:Los Angeles CA・共同設立者兼CEO:レイチェル・フランシーヌ(Rachel Francine)・URL:https://www.singfit.com/about

高齢者にとって、自分が若い頃の音楽は、単なる懐かしい音楽である以上に、過去の記憶を呼び覚ます記憶再生の媒介でもある。また自分が親しんだ曲を歌うことは、発声による健康増進効果も期待できる。歌うことは、言葉の流暢さを向上させ、認知機能と精神的幸福感を高めるのに有効である。

ミュージカル・ヘルス・テクノロジー社が提供するシングフィットは、そうした音楽を通じたセラピーをパッケージで提供するアプリである。シングフィットの主な提供先は主に高齢者施設や認知症施設。多くの施設では、リクリエーションの一環として、皆で歌唱する時間などが設けられるが、こうした時間に活躍するのがシングフィットである。

タブレットにダウンロードされたシングフィットの中には、高齢者にとって懐かしい「Over the Rainbow」や「Blueberry Hill」などの名曲がテーマ別に500曲以上収録されている。それぞれの楽曲には、曲に関するトリビア(ちょっとしたエピソード)や当時の出来事、歌う際の動きなど、皆で歌う時間を楽しくするためのアイデアが詰まっている。これは、認知機能と身体機能を刺激するプログラムとして音楽療法士が考案したものである

また、楽曲には歌フレーズの前に歌詞ガイドが入っており、認知機能や視覚に障害のある人でも、楽しく自分の好きな曲を歌うことが出来る。

シングフィットには、目的に応じて3つのパターンが提供されている。シングフィット・プライムは、今申し上げたような主に高齢者施設で多数の高齢者を対象する場合を想定して提供されるプログラムで、シングフィット・プライムアプリとともに音楽、トリビア、動きなどを盛り込んだスクリプトブックレット、無制限のオンライントレーニングがバンドルされて提供される。

シングフィット・スタジオ・プロは、アルツハイマー病などの認知機能が低下した人の注意力や関与を引き出す、作業療法士や言語療法士の資格を持つ人向けのミュージックアプリ。そして、シングフィット・スタジオ・ケアギバーは、在宅を中心に認知機能が低下した高齢者を介護する人のためのトレーニング・アプリである。シングフィット・スタジオ・プロとシングフィット・スタジオ・ケアギバーは、月額サブスクリプション・モデルとして提供されている。

ミュージカル・ヘルス・テクノロジーは、音楽療法士の資格を持つアンディ・タブマンとテクノロジー業界のベテランであるレイチェル・フランシーヌの兄妹が2012年に設立したもの。現在は、米国で第3位の規模を誇る高齢者施設を提供するSunrise Senior Living、Dementia Society of Americaをはじめ、米国42州の500以上の長期介護施設にサービスを提供している。